フサザクラは国道沿線を彩る花、箱根の谷間に温かな春風を呼ぶ!
フサザクラは箱根の山に春の訪れを告げる花。厳しく長かった冬が終わりを迎え、温かな日差しが山々に降りそそぐ時、ほんのりとした淡紅色が無数のきらめきを見せます。
【箱根の深山に春を知らせる花】
山々を冷たく吹き付けていた冬の風は、3月中旬になれば温かな南の風へと変わります。各地から春一番の便り、さらには「花粉の便り」も相次ぐ頃、山肌や谷間に目を凝らすと、陽光に照らされた黄色っぽいものが見えてくるでしょう。
やや高い木々に散らばるそれは、箱根に春を告げるフサザクラの花々です。
ここ仙石原でも見られますが、最も目立つのは御殿場から仙石原へ向かう国道138号沿いや、宮ノ下~大平台~塔之沢への国道1号沿いでしょう。
本州~九州さらには中国~東南アジア方面に自生し、神奈川県内には箱根や丹沢周辺に見られる落葉高木。山間の渓谷に多いことから「タニザワ」などの別名があります。
【フサザクラはサクラではない】
フサザクラは「サクラ」の名で呼ばれますが、実はサクラの仲間ではありません。フサザクラ科という独自の系統に属しています。花は花弁や萼(がく)といったものがなく、多数の雄しべや雌しべが垂れ下がるという個性的な姿。
淡い暗紅色をした房状の雄しべが、温かな色合いをいっぱいに見せてくれるでしょう。また樹木は高さ約15mにもなり、花が終わると新葉が生え、秋には翼果状の果実が風で周囲へ運ばれます。
花が終わった状態(2015年3月25日、国道1号・大平台付近にて撮影)
【厳しい環境で上へと育つ樹木】
箱根のフサザクラはほとんどが、険しい谷間の崖に根付いています。切り立った険しい場所は他の樹木が少ないうえ、湿気も多いためフサザクラには最適な環境。しかも生えている場所の土が移動・崩落しても、再び垂直方向に再生する力を持っているのです。
つまり斜めになっても上へ上へと伸びてゆく、向上心の強い樹木なのです。毎年のように激しい雨風が吹き荒れる箱根。しかしフサザクラはこの厳しい環境を逆に生かし、毎年のように花咲く春を迎えているのです。
フサザクラが咲く箱根の谷間(2022年3月16日、大平台付近にて撮影)
【初めて覚えた花はフサザクラ】
私が箱根に赴いたのは、まだ早春の風寒い1996(平成8)年3月のこと。同時に芦ノ湖畔の箱根ビジターセンターにて勤務を始めました。その勤務初日、ビジターセンターを拠点に自然解説活動をされるパークボランティアの方が「今日、フサザクラが咲いていた」と私に情報を持ってきたのです。
当時の私はフサザクラどころか、何一つ理解できていませんでした。しかし上司から「フサザクラがどんな花なのか、自分で確かめてこい」の一言で、実物を観察すべく足を運んだ場所が、国道1号の宮ノ下~大平台間にある「大沢橋」です。
自身の無知を痛感させられながらも、箱根に来ていちばん最初に覚えた花・フサザクラ。あれから四半世紀以上が経った今も、春が来るたび私はこの場所を訪れ、初心を想い出します。
花言葉の「新しい生活」も、まさにあの当時の私にぴったり。箱根に春を告げるフサザクラはサクラよりも早く、新しい旅立ちを祝福しているのかもしれません。
【フサザクラの基本情報】
●和名…フサザクラ(房桜)
●学名…Euptelea polyandra
●英名…なし
●フサザクラ科フサザクラ属
●落葉高木
●樹高…約 10m~15m
●開花期…3月上旬~4月上旬
●雄しべは約10本以上垂れ下がる
●雌しべは雄しべの根元に多数あり
●葉…互生で広卵形、先端が尖り縁は鋸歯状
●渓谷沿いの険しい場所を好む
●花言葉…「新しい生活」「独創的」「目新しさ」