フサザクラは国道沿線を彩る花、箱根の谷間に温かな春風を呼ぶ!

フサザクラは箱根の山に春の訪れを告げる花。厳しく長かった冬が終わりを迎え、温かな日差しが山々に降りそそぐ時、ほんのりとした淡紅色が無数のきらめきを見せます。

(2023年3月15日、国道1号・大平台付近にて撮影)

【箱根の深山に春を知らせる花】

山々を冷たく吹き付けていた冬の風は、3月中旬になれば温かな南の風へと変わります。各地から春一番の便り、さらには「花粉の便り」も相次ぐ頃、山肌や谷間に目を凝らすと、陽光に照らされた黄色っぽいものが見えてくるでしょう。

やや高い木々に散らばるそれは、箱根に春を告げるフサザクラの花々です。

(2023年3月15日、国道1号・大平台付近にて撮影)

ここ仙石原でも見られますが、最も目立つのは御殿場から仙石原へ向かう国道138号沿いや、宮ノ下大平台塔之沢への国道1号沿いでしょう。

本州~九州さらには中国~東南アジア方面に自生し、神奈川県内には箱根や丹沢周辺に見られる落葉高木。山間の渓谷に多いことから「タニザワ」などの別名があります。

(2023年3月15日、国道1号・大平台付近にて撮影)

【フサザクラはサクラではない】

フサザクラは「サクラ」の名で呼ばれますが、実はサクラの仲間ではありませんフサザクラ科という独自の系統に属しています。花は花弁や萼(がく)といったものがなく、多数の雄しべや雌しべが垂れ下がるという個性的な姿。

淡い暗紅色をした房状の雄しべが、温かな色合いをいっぱいに見せてくれるでしょう。また樹木は高さ約15mにもなり、花が終わると新葉が生え、秋には翼果状の果実が風で周囲へ運ばれます。

(2023年3月15日、国道1号・大平台付近にて撮影)

花が終わった状態(2015年3月25日、国道1号・大平台付近にて撮影)

【厳しい環境で上へと育つ樹木】

箱根のフサザクラはほとんどが、険しい谷間の崖に根付いています。切り立った険しい場所は他の樹木が少ないうえ、湿気も多いためフサザクラには最適な環境。しかも生えている場所の土が移動・崩落しても、再び垂直方向に再生する力を持っているのです。

つまり斜めになっても上へ上へと伸びてゆく、向上心の強い樹木なのです。毎年のように激しい雨風が吹き荒れる箱根。しかしフサザクラはこの厳しい環境を逆に生かし、毎年のように花咲く春を迎えているのです。

フサザクラが咲く箱根の谷間(2022年3月16日、大平台付近にて撮影)

【初めて覚えた花はフサザクラ】

私が箱根に赴いたのは、まだ早春の風寒い1996(平成8)年3月のこと。同時に芦ノ湖畔の箱根ビジターセンターにて勤務を始めました。その勤務初日、ビジターセンターを拠点に自然解説活動をされるパークボランティアの方が「今日、フサザクラが咲いていた」と私に情報を持ってきたのです。

当時の私はフサザクラどころか、何一つ理解できていませんでした。しかし上司から「フサザクラがどんな花なのか、自分で確かめてこい」の一言で、実物を観察すべく足を運んだ場所が、国道1号の宮ノ下~大平台間にある「大沢橋」です。

国道1号大沢橋(2015年4月22日撮影)

自身の無知を痛感させられながらも、箱根に来ていちばん最初に覚えた花・フサザクラ。あれから四半世紀以上が経った今も、春が来るたび私はこの場所を訪れ、初心を想い出します。

花言葉の「新しい生活」も、まさにあの当時の私にぴったり。箱根に春を告げるフサザクラはサクラよりも早く、新しい旅立ちを祝福しているのかもしれません。

(2022年3月16日、国道1号・大平台付近にて撮影)

【フサザクラの基本情報】

●和名…フサザクラ(房桜)
●学名…Euptelea  polyandra
●英名…なし
●フサザクラ科フサザクラ属
●落葉高木
●樹高…約 10m~15m
●開花期…3月上旬~4月上旬
●雄しべは約10本以上垂れ下がる
●雌しべは雄しべの根元に多数あり
●葉…互生で広卵形、先端が尖り縁は鋸歯状
●渓谷沿いの険しい場所を好む
●花言葉…「新しい生活」「独創的」「目新しさ」

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です