キブシはほんのりと広がる淡黄色、箱根の山に今年も春がやってきた!
キブシは箱根に春の訪れを告げる花。淡い黄色の粒々が、ほんのりと山々に広がります。この花が咲き始めたら、いよいよ動植物たちも活動を開始します。
【まるで小さなマスカットみたい】
ひんやりした冬の名残の空気と、温かな春を想わせる空気がせめぎ合う3月の箱根。そんな空気を感じつつ山肌を見上げると、何か黄緑色っぽいものが見えてくるでしょう。
もう少し近づいてみると、あたかも小さなマスカットに見えるかもしれません。これが箱根にほんのりと春を告げるキブシの花々です。
キブシは全国各地に分布する日本固有種の樹木。箱根の山ではあちこちに見られ、ここ仙石原でも登山道や自然探勝歩道、車道沿いでよく見かけるでしょう。
葉が出る前の3月中旬に、淡黄色の「総状花序」を多数垂れ下がらせます。4月下旬頃に花は次第に終わりを迎え、6月~7月には緑色に結実します。
【雄花と雌花を見分けてみよう】
キブシは「雌雄異株」の樹木、つまり雄と雌があります。それを見分けるのは花の中。
雄花はやや黄色が濃いめで、1本の柱頭を8本の雄しべが囲みます。
キブシの雄花(2021年4月15日、芦ノ湖東岸歩道にて撮影)
雌花はやや黄緑色っぽく、真ん中に柱頭が1本のみです。
【昔はお歯黒に使われていた果実】
キブシは花が終わると同時に葉が生え、初夏には緑色の実をたくさん付けます。秋頃には黒くなっていきますが、実は昔「お歯黒」の原料として使用されていました。
お歯黒は本来、ウルシ科の樹木・ヌルデにできる虫こぶ「五倍子(ごばいし)」を使用しますが、これが高価なため、やや安価なキブシの実が代用されていたのです。
キブシが「木五倍子」と和名表記されるのは、このためと考えられています。
キブシの果実(2016年6月19日、芦ノ湖西岸歩道にて撮影)
キブシの果実(2017年6月17日、芦ノ湖西岸歩道にて撮影)
【箱根で2番目に覚えたキブシ】
私は1996(平成8)年3月に箱根へやってきました。そして同時に芦ノ湖畔にある「箱根ビジターセンター」で勤務を始めます。間もなく行われた自然観察会では、サクラやスミレ等々春の花が咲き乱れる中、なぜかひときわ目を引いたキブシの花。
ボランティア解説員のみなさんがルーペを使い、雄花か雌花かを確かめていたことを今でも思い出します。箱根に来たばかりの私がフサザクラに次いで、2番目に覚えた花こそキブシ。
私にとっては春の訪れを喜ぶと同時に、初心に帰らせてくれる花です。
キブシが開花すれば、冬の眠りから覚めた動植物たちが、いよいよ活動を始めます。
【キブシの基本情報】
●和名…キブシ(木五倍子)
●学名…Stachyurus praecox / Stachyurus praecox f.rotundifolius
●英名…Early spiketail
●キブシ科キブシ属
●落葉低木
●樹高…約 3m~5m
●開花期…3月中旬~4月下旬
●淡黄色の総状花序は長さ約4~10cm
●葉…対生で卵形楕円形
●6月~7月に緑色に結実
●果実は昔、お歯黒の原料とされた
●花言葉…「待ち合わせ」「出会い」「嘘」など