リュウノウギクは深まる秋を謳う花、登山道脇に咲いている私を見て!!
リュウノウギクはさわやかな青空の下、明るい白と黄色を輝かせる野菊。この花がいっぱい咲き広がれば、仙石原の秋はいよいよ深まっていきます。
【晩秋の仙石原…すぐ横に微笑む】
夏の空気からすっかり秋の空気へと変わった10月中旬。紅葉前線は箱根最高峰・神山から少しずつ仙石原へ高度を下げ、やがて箱根の山全体へと広がっていきます。
ちょうど同じ頃、仙石原の歩道や登山道の傍らに、ひときわ白く輝く花がいっぱい咲いていませんか。この花々こそ、いよいよ秋本番を感じさせるリュウノウギクです。
リュウノウギクは日本の固有種で、東北地方(福島県)から九州地方(宮崎県)にかけて分布し、日当たりよく明るい林縁部に生育します。関東地方や近畿地方では多く見られるでしょう。
開花期は10月上旬から11月下旬。ほっそりと背の高い茎から3つに分裂した葉を多数広げ、先端に1個~3個の花を咲かせます。
外側に並んだ純白の舌状花(ぜつじょうか)を、真ん中の黄色い管状花(かんじょうか)と緑深い葉が、見事な配色で引き立たせています。
秋になるとハコネギクやユウガギク、シラヤマギク、シロヨメナ、ノコンギクなどさまざまな野菊が見られますが、リュウノウギクは開花期が最も遅い花。
でもその分、秋の深まりを実感させてくれるのです。箱根では仙石原をはじめ金時山や丸岳に湖尻峠付近など、日当たりのいい草原や山肌に見られます。
リンドウといっしょに咲く(2014年10月25日、丸岳にて撮影)
【花のみならず葉にもご注目を】
リュウノウギクという和名は茎や葉の香りが、中国から伝わった精油「竜脳」に似ていることが由来とされています。しかし実際には「樟脳(しょうのう)」に似た香りでしょう。
リュウノウギクの葉は長さ約4cm~8cm。楕円形を帯びて3つに分裂し、縁には粗くて大きな鋸歯が刻まれています。やや光沢をもつ深い緑色の葉を、少し指でもんでみましょう。
確かにほのかな独特の香りがします。これも仙石原の秋の香りです。
【指先で楽しむさわやかな芳香】
前述のようにリュウノウギクは樟脳の香りを持ちますが、実は全体に樟脳の主成分が豊富に含まれており、これには優れた薬効があるのです。
地方によっては開花最盛期を迎えたリュウノウギクを根元から採取し、細かく刻んで陰干した後、布袋に入れてお風呂に入れます。
すると成分(精油)が肌に刺激を与え、肩こりや腰痛・筋肉痛など多くの怪我や病症に効果を示すとされています。箱根では採取はできませんが、葉から漂う芳香のみ味わっておきましょう。
【紅葉だけでなく、私も見てね!!】
秋の仙石原では多くの場所でリュウノウギクに出会えるでしょう。とりわけ箱根でいちばん人気の高い金時山では、登山道のあちこちで見られます。
青空と太陽に純白さを輝かせるその姿は、山肌をどんどん彩る紅葉の中・・・人々にさりげなく、でも力強く「私も咲いてるよ!!」と導いているかのようです。
【リュウノウギクの基本情報】
●和名…リュウノウギク(竜脳菊)
●学名…Chrysanthemum japonicum
●英名…なし
●キク科キク属
●多年草
●開花期…10月上旬~11月下旬
●花…直径約2.5cm~5cm前後
(茎の先端に1輪~3輪開花、中央の黄色い管状花と、外側の
白い舌状花が特徴)
●葉…長さ約4cm~8cmで対生。楕円形に近く3つに浅く裂け、
縁には粗い鋸歯が刻まれる。葉を指でもむと芳香がする。
●茎の高さは約30cm~50cm
●花言葉…「無常の美」「忠誠心」